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東京高等裁判所 平成9年(う)2035号 判決 1998年3月25日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年一〇月に処する。

原審における未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入する。

原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人田辺研一郎作成の控訴趣意書に記載されたとおりであって、量刑不当をいうものである。

所論に対する判断に先立ち、職権をもって調査するに、原判決は、本件大麻取締法違反幇助の罪となるべき事実として、被告人は、A、Bらが、共謀の上、みだりに、営利の目的で、大麻を輸入しようと企て、二回にわたり、右B及び情を知らない運搬人らを通してマカダミアナッツ缶内に隠匿した大麻をパラオ共和国から空路本邦に輸入した際、その情を知りながら、右B及び情を知らない運搬人らのパラオ共和国への旅行の手続をするとともに、右Bに大麻を隠匿するための前記マカダミアナッツ缶を引き渡すなどし、もって、右A、Bらの前記犯行を容易にしてこれを幇助したものである旨判示している。この判示は、公訴事実と同旨であって、被告人自身が営利の目的をもっていたことを含んでおらず、営利の目的をもつ者の大麻の密輸入を営利の目的をもたない者が幇助したことを判示したにとどまるから、営利の目的をもたない被告人に対しては、刑法六五条二項により、刑法六二条一項、大麻取締法二四条一項を適用すべきであった。しかるに、原判決は、刑法六二条一項、大麻取締法二四条二項、一項を適用し、被告人に対し同条二項の罪の幇助罪の成立を認めているから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤りがあるというべきである。

よって、所論に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従い被告事件につき更に次のとおり判決する。

罪となるべき事実は原判決が認定したとおりであり、法令の適用は原判示一、二の各所為中大麻取締法違反幇助の点につき刑法六二条一項、大麻取締法二四条一項と改めるほかは、科刑上一罪の処理、刑種の選択及び法律上の加重減軽の点を含めて原判決のとおりであって、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年一〇月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、原審及び当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文により被告人に負担させる。

量刑の事情につき付言すると、被告人は、密輸人らが営利の目的で二一キログラム以上の大麻葉片を一四四個のマカダミアナッツ缶の中に隠匿してパラオ共和国から空路本邦に密輸入(関税法上の輸入禁制品の輸入については未遂及び予備)するのを幇助したものであって、稀にみるほど多量の密輸事犯に加担した点ですでに犯情は重い上、平成四年一二月一〇日大麻取締法違反罪により懲役一年に処せられて服役した累犯前科を有していることをも考慮すると、その刑事責任は重いが、他方、本件大麻が税関職員に発見押収されて我が国内に拡散することがなかったこと、被告人が事実を認めて反省の情を示していることなど斟酌すべき事情もあるので、共犯者らとの刑の均衡を考慮した上、主文の刑を相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 平谷正弘 裁判官 杉山愼治)

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